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大阪地方裁判所 昭和35年(人)1号 決定 1960年2月24日

請求者 孫斗八

拘束者 大阪拘置所長

主文

本件請求を棄却する。

請求の費用は請求人の負担とする。

理由

本件請求の要旨は「請求者は昭和二六年一二月一九日神戸地方裁判所において死刑の判決の言渡を受け、控訴ついで上告したがいずれも棄却され、右判決は昭和三〇年一二月二七日に確定した請求者は現在大阪拘置所に拘置されているが、このほど、神戸地方裁判所から、請求者を原告、神戸市兵庫区長を被告とする同裁判所昭和三四年(行)第三〇号外国人登録証明書記載事項変更等事件について、昭和三五年二月二五日の口頭弁論期日の呼出を受けたので拘束者に対し右口頭弁論期日に出頭したい旨申し出た。ところが同月二三日になつて大阪拘置所長代理西垣活応は請求者に対し右出頭を許可しないと通知してきた。これは請求者の自由に対する不当な拘束であるから、拘束者は請求者を拘禁継続のまま前記事件の口頭弁論期日である昭和三五年二月二五日午後三時、神戸地方裁判所第四民事部第二号法廷に出廷させなければならない旨の裁判を求める」というにある。

しかしながら、人身保護法による救済を請求することができるのは、法律上正当な手続によらないで身体の自由を拘東されている場合で、その拘束または拘束に関する裁判もしくは処分が権限なしにされまた法令の定める方式もしくは手続に著るしく違反していることが顕著なときに限るとされているところ(人身保護法第二条、人身保護規則第四条)、死刑の言渡を受けた者が刑の執行に至るまで拘置所に拘置されることは刑法第一一条第二項、監獄法第一条一項四号の規定するところであり、拘置が身体の自由を拘束することを本質とするものである以上、本件において請求者がいうように民事(行政)裁判の当事者として口頭弁論期日の呼出を受けて裁判所に出頭する自由が拘束されたとしても、これをもつて法律上正当な手続によらないで身体の自由を拘束されたといえないから本件請求は明らかに理由がない。

よつて人身保護規則第一八条、第二一条一項六号、人身保護法第一一条一項民事訴訟法第八九条により主文のとおり決定する。

(裁判官 平峰隆 中村三郎 上谷清)

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